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デジタル時代の彫刻:3Dプリント

2023.07.10 彫刻の基礎知識
デジタル時代の彫刻:3Dプリント

3Dプリント

デジタルで作った立体は、3Dプリンタを使って物理的な形状にすることができます。また、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を使って、デジタル空間で展示することも可能です。

3Dプリントの手順

  1. 3Dプリンターの種類と特徴を把握する
  2. データを変換する
  3. STLファイルをスライスソフトで変換する
  4. 3Dプリンターの設定を行う
  5. 3Dプリントを実行する
  6. 造形物の取り外しと仕上げを行う

3Dプリンタの種類と特徴

3Dプリンターには、様々な種類と特徴があります。その中から自分の目的や予算に合ったものを選ぶことが重要です。

家庭用や趣味用であれば、安価で操作が簡単な 熱溶解積層方式(FDM方式) のものを選ぶと良いでしょう。
この方式では、熱で溶かした樹脂(フィラメント)をノズルから押し出して層を積み重ねることでオブジェクトを作ります。樹脂の種類や色も豊富です。

一方で、業務用や高精度なものが必要であれば、高価で操作が難しい 光造形方式 や 粉末燃結方式 のものを選ぶと良いでしょう。
これらの方式では、液体や粉末の材料をレーザーや紫外線などで硬化させて層を積み重ねることでオブジェクトを作ります。表面が滑らかで細かいディテールも表現できます。

現代の3Dプリント技術は、7つの主要なタイプと20以上のサブタイプを含んでいます。これらには以下のようなものが含まれます。

  • FDM(Fused Deposition Modeling) 熱で溶かしたプラスチックを層状に積み重ねて立体物を作り出す方法です。

  • SLA(Stereolithography) 液体樹脂をレーザーで硬化させて立体物を作り出す方法です。

  • MSLA (Masked Stereolithography) MSLAは、SLAと同様に液体樹脂を硬化させますが、ここではマスクを使用して一度に全体を硬化させます。

  • DLP (Digital Light Processing) DLPもまた液体樹脂を硬化させる方法ですが、ここではデジタルプロジェクターを使用します。

  • SLS (Selective Laser Sintering) SLSは、粉末状の素材をレーザーで焼結(結合)させて立体物を作り出す方法です。

  • DMLS (Direct Metal Laser Sintering) DMLSは、SLSと同様に粉末状の素材を焼結させますが、ここでは金属素材を使用します。

  • SLM (Selective Laser Melting) SLMもまた金属粉末を使用しますが、ここではレーザーで完全に溶かして固体を作り出します。

  • EBM (Electron Beam Melting) EBMは、電子ビームを使用して金属粉末を溶かし、高品質な金属部品を作り出す方法です。

  • Material Jetting Material Jettingは、インクジェットプリンタと同様に、素材を細かいドロップとしてデポジット(堆積)し、UV光で硬化させる方法です。

  • DOD (Drop On Demand) DODは、必要な部分にだけ素材をデポジットし、不要な部分は除去する方法です。

  • Binder Jetting Binder Jettingは、粉末状の素材にバインダー(接着剤)を噴射して固体を作り出す方法です。

3Dプリント用のデータに変換する

3Dモデルのデータを作成したら、次は3Dプリント用のデータに変換する必要があります。3Dプリント用のデータとは、一般的に STLファイル と呼ばれるもので、オブジェクトを三角形の面(ポリゴン)で表現したものです。

STLファイルは、ほとんどの3Dモデリングソフトウェアやツールでエクスポート(出力)できます。

エクスポートする際の注意点

単位を確認する

3Dモデリングソフトウェアやツールでは、メートルやセンチメートルなど様々な単位が使われていますが、STLファイルでは単位が定義されていません。そのため、エクスポート時に単位を指定する必要があります。一般的にはミリメートルが推奨されます。

品質を調整する

STLファイルは、オブジェクトをポリゴンで表現するため、ポリゴンの数が多ければ多いほど精度が高くなります。しかし、ポリゴンの数が多すぎるとファイルサイズが大きくなり、3Dプリント時に問題が発生することがあります。そのため、品質とファイルサイズのバランスを考えて調整する必要があります。

STLファイルをスライスソフトで変換する

STLファイルはそのままでは3Dプリントできません。そのため、 スライスソフト と呼ばれる専用のソフトウェアで変換する必要があります。スライスソフトでは、STLファイルを薄い層(スライス)に分割し、各層の動作指示(Gコード)に変換します。

スライスソフトは、3Dプリンターに付属しているものや、インターネットからダウンロードできるものなどがあります。代表的なものとしては Cura や Slic3r などがあります。

スライスソフトで変換する際の注意点

造形物の向きや位置を調整する

STLファイルをスライスソフトに読み込んだら、まず造形物の向きや位置を調整します。向きや位置によっては、造形物の強度や出力時間、サポート材の必要性などが変わります。一般的には、造形物の底面が平らで大きく、垂直方向に細長い部分が少ない方が良いとされます。

造形物のサイズや密度を調整する

次に、造形物のサイズや密度を調整します。サイズは、3Dプリンターの出力範囲内に収まるように拡大縮小します。密度は、造形物の内部を空洞にしたり格子状にしたりすることで軽量化や節約ができます。ただし、密度が低すぎると強度が低下することもあります。

レイヤーの厚さや速度を設定する

次に、レイヤーの厚さや速度を設定します。レイヤーの厚さは、造形物の表面の滑らかさや出力時間に影響します。厚さが細かいほど滑らかになりますが、出力時間も長くなります。速度は、ノズルやプラットフォームの移動速度を指します。速度が速いほど出力時間が短くなりますが、精度や品質が低下することもあります。

サポート材やベッド接着を設定する

最後に、サポート材やベッド接着を設定します。サポート材は、造形物の下部や突出部などに必要な補助材料です。サポート材が必要な場合は、その形状や位置を設定します。ベッド接着は、造形物がプラットフォームから剥がれないようにするための方法です。ベッド接着が必要な場合は、その方法を選択します。

以上の設定を行ったら、STLファイルをGコードに変換します。変換したGコードはSDカードやUSBメモリなどに保存して3Dプリンターに転送します。

3Dプリンターの設定を行う

Gコードを3Dプリンターに転送したら、次は3Dプリンターの設定を行います。3Dプリンターの設定には以下のようなものがあります。

  • フィラメントの装填 FDM方式の3Dプリンターでは、フィラメントと呼ばれる樹脂素材を装填する必要があります。フィラメントは色や種類(ABSやPLAなど)によって異なります。自分が使いたいフィラメントを選んで装填します。

  • ノズルとプラットフォームの温度設定 FDM方式の3Dプリンターでは、ノズルとプラットフォームの温度を設定する必要があります。温度はフィラメントの種類によって異なります。一般的にはABSは高温(230℃前後)、PLAは低温(200℃前後)に設定します。プラットフォームの温度はベッド接着に影響します。一般的にはABSは高温(100℃前後)、PLAは低温(60℃前後)に設定します。

  • プラットフォームのレベリング FDM方式の3Dプリンターでは、プラットフォームのレベリング(水平調整)を行う必要があります。レベリングは、ノズルとプラットフォームの距離を一定にすることです。距離が不均一だと、造形物の品質や精度に影響します。レベリングは、3Dプリンターの画面やボタンで行うことができます。

3Dプリントを実行する

3Dプリントを実行するには、3Dプリンターの画面やボタンでGコードを選択してスタートします。
3Dプリント中は、ノズルやプラットフォームが高温になるので注意してください。
また、出力時間は造形物のサイズや複雑さによって異なりますが、数時間から数十時間かかることもあります。そのため、途中で中断しないように注意してください。

造形物の取り外しと仕上げを行う

3Dプリントが完了したら、造形物を取り外しと仕上げを行います。取り外しと仕上げには以下のような方法があります。

  • 取り外し 造形物をプラットフォームから取り外す方法です。造形物が冷めて固まったら、スパチュラやカッターなどでそっと剥がします。剥がす際には力を入れすぎないように注意してください。

  • サポート材の除去 サポート材を造形物から除去する方法です。サポート材は手で折ったり切ったりして取り除きます。取り除く際には造形物を傷つけないように注意してください。

  • 研磨 造形物の表面を滑らかにする方法です。レイヤーの跡やサポート材の跡などを消すために行います。紙やすりやドリルなどで研磨します。研磨する際には細かい部分や弱い部分に注意してください。

  • 塗装 造形物の色や質感を変える方法です。塗料やスプレーなどで塗装します。塗装する際には下地処理やマスキングなどを行うと良いでしょう。


デジタルで立体を作ることは、彫刻の新しい可能性を広げることです。
デジタル技術を使えば、自分の思い描いたものを自由に表現できますし、実際に手に取ることもできます。

しかし、デジタルで立体を作ることは、決して簡単なことではありません。
ソフトウェアやツールの操作や設定はもちろん、3Dプリンターの種類や特徴、材料や温度などの知識も必要です。また、造形物の寸法や比率、複雑さや強度なども考慮する必要があります。

デジタルで立体を作ることは、彫刻の技術や感性だけでなく、デジタルの技術や知識も必要とすることです。
そのため、デジタルで立体を作ることは、彫刻の新しい挑戦でもあるのです。

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