4つのピエタ
2023.06.15 ミケランジェロミケランジェロは生涯に4つのピエタという題材の彫刻を制作しましたが、それぞれに彼の人生や美意識が反映されています。
本記事では、彼の4つのピエタについて、制作時期や背景、構成や表現などを詳しく解説していきます。
サン・ピエトロのピエタ
サン・ピエトロのピエタは、ミケランジェロが最初に制作したピエタであり、最も有名な作品です。この作品はバチカンのサン・ピエトロ大聖堂に展示されています。

制作時期と背景
サン・ピエトロのピエタは1498年から1500年にかけて制作されました。
当時23歳だったミケランジェロは、フランス人の枢機卿ジャン・ド・ビレール・ド・ラグロラから依頼を受けました。
枢機卿は自分の墓に飾るためにピエタ像を求めていたのですが、彼は完成を見ることなく亡くなりました。
構成と表現
サン・ピエトロのピエタは一枚岩から削り出された大理石彫刻で、聖母マリアが十字架から降ろされたイエス・キリストの亡骸を抱く姿を表しています。マリアは若々しく美しく、キリストは傷跡がほとんど見えないほど穏やかな表情をしています。
この作品は三角形の構図で構成されており、古典的な調和と美を表現しています。マリアはキリストよりも大きく表現されており、まるで幼児を抱くかのように見えます。
これは三角形の構図を保つためにミケランジェロが意図的にしたことであり、またマリアの若さと健康美は「原罪のない聖母マリアは歳をとらない」という考え方から表現したことだと言われています。
この作品にはミケランジェロが自分の名前を刻んだ唯一の署名があります。これは完成後に「あれは二流彫刻家が作ったものだ」という噂を聞いたミケランジェロが怒って夜中に教会に忍び込んでマリアの服の襟もとに刻んだという逸話があります。
フィレンツェのピエタ
フィレンツェのピエタは、ミケランジェロが70代で制作したピエタであり、未完成に終わった作品です。
この作品はフィレンツェのドゥオーモ博物館に収蔵されています。

制作時期と背景
フィレンツェのピエタは1547年に制作を開始しました。当時70代だったミケランジェロは、自分の墓に飾るためにこの作品を制作しました。しかし、1553年になってもまだ作業を続けた記録が残っている一方で、結局未完のまま終わることになりました。
ミケランジェロは不満足だったためか、キリストの足やマリアの腕を破壊したという逸話があります。
構成と表現
フィレンツェのピエタは、マリアとキリストの他にマグダラのマリアとニコデムスが登場します。
ニコデムスはキリストの埋葬に立ち会った人物で、その顔はミケランジェロ自身に似ています。このことから、ミケランジェロは自分自身をニコデムスとして表現したと言われています。
この作品はサン・ピエトロのピエタと比べると、より動的で感情的な表現が目立ちます。キリストは重く垂れ下がった体でマリアに抱かれており、マリアは悲しみに打ちひしがれています。
マグダラのマリアはキリストの足を支えており、ニコデムスはキリストの背中を支えています。この作品はミケランジェロが自分の死を意識して制作したものであり、彼の内面を反映しています。
パレストリーナのピエタ
パレストリーナのピエタは、ミケランジェロが晩年に制作したピエタであり、未完成に終わった作品です。
この作品はフィレンツェのアカデミア美術館に収蔵されています。

制作時期と背景
パレストリーナのピエタは1555年頃に制作されたと言われています。
この作品はかつてパレストリーナという町で発見されたことからその名がつきましたが、ミケランジェロ本人が制作したかどうかについては議論があります。
一説によると、この作品はミケランジェロが制作を始めたものを彼の弟子が引き継いだものだと言われています。
構成と表現
パレストリーナのピエタは、マリアとキリストだけでなく、聖母マリアの夫ヨセフも登場します。
しかし、この作品も未完成であり、ヨセフはほとんど彫られていません。この作品はサン・ピエトロのピエタと同じく三角形の構図で構成されていますが、より簡素で抽象的な表現になっています。マリアはキリストの頭を優しく撫でており、キリストはマリアの膝に寄りかかっています。
この作品はミケランジェロが晩年に制作したものであり、彼の老境を感じさせます。
ロンダ二―二のピエタ

ロンダ二―二のピエタは、ミケランジェロが最後に制作したピエタであり、未完成に終わった遺作です。
この作品はミラノのスフォルツァ城博物館に収蔵されています。
制作時期と背景
ロンダニーニのピエタは1559年から1564年にかけて制作されました。当時80代だったミケランジェロは、視力を失いながらも手探りで彫刻を続けました。この作品は彼が死去する直前まで手を加えていたと言われています。
この作品はかつてロンダニーニ家の所有であったことからその名がつきましたが、誰に依頼されたかやどこに設置される予定だったかは不明です。
構成と表現
ロンダニーニのピエタは、マリアとキリストの二人だけで構成されています。
しかし、この作品は未完成であり、大理石の塊からほとんど彫り出されていない部分も多くあります。マリアはキリストの背中に手を回して支えており、キリストはマリアの胸に顔を寄せています。この作品はサン・ピエトロのピエタやフィレンツェのピエタと比べると、より簡素で抽象的な表現になっています。
マリアとキリストの顔や体は不完全であり、細部や装飾も省略されています。
この作品はミケランジェロが晩年に制作したものであり、彼の苦悩や孤独を感じさせます。
また、彫刻の形式や技法においても、ミケランジェロが新しい表現を模索していたことがうかがえます。
ミケランジェロの4つのピエタについての紹介しました。それぞれに彼の人生や美意識が反映されており、彫刻史上に残る傑作と言えるでしょう。サン・ピエトロのピエタはルネサンスの理想を体現した古典的な調和と美を表現しています。
フィレンツェのピエタは自分の死を意識して制作した動的で感情的な表現です。パレストリーナのピエタは三角形の構図を保ちながらも簡素で抽象的な表現です。ロンダニーニのピエタは未完成に終わった遺作であり、苦悩や孤独を感じさせる表現です。
これらの4つのピエタを通して、ミケランジェロの芸術的な変遷や探求心を知ることができます。