モデリング彫刻
2023.07.06 彫刻の基礎知識古代から彫刻というと、石や木などの硬い素材を削って形を作るイメージがありますが、現代では、粘土や石膏などの柔らかい素材を使って形を作る方法が一般的です。
この方法はモデリングと呼び、素材を付け足したり削ったりしながら、自由に造形することができる制作のスタイルです。
また、モデリングで作った塑像は、石膏や金属などに型取りして複製することもできます。この記事では、モデリング彫刻の基本的な知識と技法について紹介します。
塑像
塑像とは、粘土や土などの可塑性のある素材で作られた彫刻のことです。塑像は、そのまま焼成したり乾燥させたりして完成させる場合もありますが、多くの場合は、石膏や金属などに型取りして鋳造することで耐久性や強度を高めます。
塑像の歴史は古く、日本では奈良時代にすでに乾漆像やテラコッタ(焼成土器)が作られていました。西洋では、古代ギリシアやローマ時代からブロンズ像が制作されており、ルネサンス以降も多くの名作が生まれました。近代以降は、ロダンやミロなどの彫刻家がモデリングの可能性を広げていきました。

塑像の道具
回転台
粘土を乗せて回転させることで、塑像の全体的なバランスや形を確認しながら制作することができます。
木材
回転台の上に置く台や板などを作るために使います。木材は粘土の重さに耐えられる強度が必要です。また、粘土を叩いて成形する際にも使います。
シュロ縄
木材で作った台や板に巻き付けて固定するために使います。シュロ縄は粘土が滑り落ちないようにする効果もあります。
番線(針金)
粘土の中に入れて心棒とするために使います。心棒とは、塑像の骨格や支持体のようなもので、粘土の重さや変形に耐えられる強度を選びます。
彫塑用ベラ
粘土を削ったり付け足したりするために使います。鉄製や木製のものがあり、様々な形や大きさがあります。鉄製のものは粘土の水分で錆びやすいため管理に気をつけましょう。
スプーン
作品の表面を整えるために使用します。スプーン以外にもナイフや金属プレート、ゴムベラなど様々な道具を使います。
タオル、布
粘土の保湿のために使用します。固まってしまった粘土に濡れタオルを巻いて、粘土を戻す時などにも使用します
霧吹き
粘土に水分を与える際に使用します。
塑像の素材
彫塑用粘土 粘土の中で最も彫塑性に優れ、石膏の型どりや彫像用に広く使われている土粘土です。 乾燥し硬くなった際にも、水を含ませて練りなおせば、再利用することができます。
油粘土 油分を含んだ粘土で、乾燥しにくく柔らかいため、何度でも形を変えることができます。 しかし、焼成することができないため、原型として使用されることが多いです。
陶芸用粘土/テラコッタ粘土 粘土鉱物や砂などを混ぜた粘土で、水分を含んだ状態で形を作り、乾燥させてから高温で焼成します。 焼成することで強度が増し、色や質感も変化します。焼成後は再び水分を加えても柔らかくなりません。
ポリマークレイ ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂を主成分とした粘土で、低温で焼成することができます。 色や質感が豊富で、細かい表現が可能です。しかし、強度は低く、高温に弱いです。
石粉粘土 超微粒子石粉を主原料としたきめが細かく伸びのよい粘土で、乾燥すると硬化します。 硬く強く、絵具ののり・発色に優れているため創作人形を始め、あらゆる造形分野の表現に応えることができます。
塑像の作り方
ラフスケッチ・下絵 制作する作品のイメージをスケッチします。一つの角度からだけでなく、様々な角度のスケッチを作成しましょう。
心棒作り 制作する作品の大きさを決定して、そのサイズに合うように材木、番線、シュロ縄を使い、心棒を作成します。この段階で完成時の大きさや全体のバランスを決定します。
粗付け 全体に必要な粘土の量を粗付けします。この段階では作品の成形は行わず、真となる部分に必要な量の粘土を盛り付けることを心がけましょう。
全体の造形 作品の動きの流れや立体の構成などを整えていきます。この段階では細部を作りこまず、粘土を付け足したり削ったりして、作品全体の大きな流れを作っていきます。
細部の造形 作品の細部を作りこみます。この段階では全体のバランスを崩さないように心がけながら、作品の表情や質感の作りこみを行っていきます。
仕上げ 作品の最終的な形や表面を整えます。ヘラやスプーンなどで粘土の表面を滑らかにしたり、エッジを効かせたり、木や布などでテクスチャをつけたりして、作品の完成度を高めていきます。このとき、粘土の水分量に注意しながら、適度な乾燥度を保つことが必要です。
塑像の注意点
制作中の粘土の水分量の管理
粘土を使う場合は、水分量が多すぎると粘土が崩れやすくなり、少なすぎると粘土が固くなってしまいます。そのため、制作中は定期的に霧吹きで水分を与えたり乾燥させたりして、適度な水分量を保つ必要があります。
制作に必要な道具の管理
塑像の制作には、彫塑用ベラなどの道具を使いますが、これらの道具は汚れやすく、また他の素材に影響を与えることがあります。そのため、制作中は定期的に道具を洗ったり拭いたりして、清潔に保つ必要があります。
型取り(石膏取り)

塑像における型取りは、主に石膏を使用して、作品の表面の型を取る「雌型」と、雌型の中に石膏を流し込み、作品原型の複製となる「雄型」を作ります。最終的には雌型は壊され、雄型のみが作品となります。
(石膏取り)の方法
下準備 複雑な原型を型取りする場合に、雌型から粘土を抜きやすくするために、あらかじめ粘土原型に「切り金」を差し込んで雌型を切り離す境目を作ります。
硬化テスト 石膏が固まる時間を測るためにテストを行います。石膏と水を混ぜた後、小さな容器に入れて固まるまでの時間が硬化時間です。
雌型の作成 作品の表面に石膏をかけて作る型のことです。雌型は、一層~三層に分けて厚みをつけていきます。雄型も石膏で作成する場合は雌型の一層目に墨汁などで色を足しておくと分かりやすくなります。 また雌型に窓を作る場合は。窓同士を合わせるために、雌型の表面に墨汁などで目印を入れておくと良いでしょう。
雌型の補強 雌型の一層目をかけた後に、番線を使い雌型を補強します。この時、余計な不純物が雌型に付着しないように注意しましょう。 またスタッフなどで補強してしまうと割り出し作業が大変になるため避けましょう。
粘土を抜く 雌型が硬化すると、中の原型粘土を抜き出します。窓がある場合は、窓を外して粘土を抜き取ります。
雌型を乾燥させ剥離剤を塗る 雄型と剥離しやすくするために雌型の内側に剥離剤を塗ります。剥離剤は石鹸水でも代用可能です。
雄型の作成 雌型の内側に石膏を流し込みます。表面となる一層目は全体を傾けながら均一になるように流し、二層目からは石膏を絡めたスタッフを貼り付けながら雄型を補強していきます。 窓の部分をつなぎ目に注意して合体させます。この時、内側を無垢にしてしまうとヒビ割れなどの原因になるため注意しましょう。
割り出し 雌型を割って雄型を取り出します。細部はニードルなどを使い、作品を壊さないように雌型を外していきます。
仕上げ・直付け 雄型が取り出せたら、窓のつなぎ目に盛り上がった「バリ」をやすりなどで取り除きます。また、型取りの作業中に細部などが欠損したり、表面に穴などが開いた場合は、石膏を直に付けて補修します。
石膏取りの道具
切り金
型の境界線を作るために使う金属片です。切り金は細長く曲げやすいものが適しています。切り金は作品原型の表面に沿って埋め込みますが、深く埋め込みすぎないように注意しましょう。アルミ缶を3㎝角に切ったものでも代用可能です。
石膏
水と混ぜて固まる粉末です。石膏には様々な種類がありますが、一般的には硬化時間や強度によって使い分けます。石膏は水との割合や混ぜ方によっても性質が変わります。
ボウル
石膏と水を混ぜる際に使用します。硬化した石膏が硬化前の石膏と混ざると効果不良の原因になるためこまめに洗いましょう。
石膏ベラ
石膏を溶いたり、かけたりするためのヘラです。直付けの際に石膏を成形する時にも使用します。
番線(針金)
雌型の形に合わせた補強に使用します。雌型の補強作業はとても大変な作業であるため、細いものや太いものを揃えて使い分けると良いでしょう。
かき出しベラ
雌型から粘土を抜き取る際に使用します。細部の粘土を抜き取る場合はニードルなどを使います。
ワックス(剥離剤)
型取りの際に、雌型と雄型を剥離させるために雌型の内側に塗り込みます。石鹸水などの洗剤を混ぜた水でも代用可能です。
スタッフ
雄型の補強のために内側に混ぜる繊維状の石膏補強材です。
まとめ
モデリング彫刻は、可塑性のある粘土などの素材で造形する技法です。モデリング彫刻は自由度が高く、個性的な表現ができますが、制作には時間と労力がかかります。また、モデリング彫刻は型取りをすることで、耐久性や強度の高い素材に複製することができます。モデリング彫刻は、彫刻の基本的な技法の一つであり、多くの名作が生まれています。