システィーナ礼拝堂の天井壁画
2023.06.16 ミケランジェロこの記事には会員専用コンテンツが含まれます。ログインしてお読みください。

システィーナ礼拝堂は、バチカン市国にあるローマ教皇の礼拝堂で、ルネサンス期の傑作とされるフレスコ画で装飾されています。 特に、ミケランジェロが1508年から1512年にかけて描いた天井画は、『創世記』からの9つの場面や「12人の預言者と巫女」などを表現した壮大な作品です。
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天井画
ユディットとホロフェルネス デルフォイの巫女 イザヤ クエマの巫女 ダニエル リビアの巫女
ゼカリヤ ノアの泥酔 大洪水 ノアの燔祭 原罪と楽園追放 エヴァの創造 アダムの創造 大地と水の分離 天体の創造 光と闇の分離 ヨナ
『創世記』からの9つの場面
天井画の中央部分には、旧約聖書の『創世記』から選ばれた9つの場面が描かれています。これらは神が世界を創造し、人類を導き、罰する様子を表しています。
『光と闇の分離』

この場面は、創世記の冒頭部分に記された神による光と闇の分離を描いたものです。この絵は祭壇のある東側の壁に最も近い場所に位置しています。神は人間の老火として表現され、神が手を振って光と闇を分ける様子が描かれています。
『天体の創造』

この場面では、神の命令により太陽や月が生まれたところを描いています。神が太陽と月を創造し、植物を創造する様子が描かれています。神は光と闇の分離と同じ姿勢で空中を飛んでおり、背景には青い空と緑の大地が広がっています。
『大地と水の分離』

この場面では、神が右手で大地と水を分ける様子が描かれています。神は前の二つの場面と同様に空中を飛んでおり、両手で水を押さえるようにしています。背景には大地と水が分かれている様子が表現されています。
『アダムの創造』

この場面は、天井画の中でも最も有名な部分です。神が右手を伸ばしてアダムに生命を与える瞬間が描かれています。神は赤い布に包まれた天使たちに囲まれて空中を飛んでおり、アダムは大地に横たわっています。神とアダムの指先が触れそうになっているところが、この場面のクライマックスです。
『エヴァの創造』

この場面では、アダムが深い眠りに陥っている間に、神がアダムのあばら骨からエヴァを創造する様子が描かれています。エヴァは神に向かって礼拝するような姿勢で表現されています。
『原罪と楽園追放』

この場面は、2つの場面が同時に描かれています。左側にはエヴァが蛇にそそのかされ禁断の果実を受け取る様子。また、右側には神の使者がアダムとエヴァを楽園から追放する様子が描かれています。蛇は女性の姿で表されており、これはサタンが蛇に憑依したことを示しています。
『ノアの燔祭』

この場面では、大洪水から生き残ったノアが家族や動物たちと共に船から降りており、神に生贄を捧げようとする場面を描いてます。生贄のための羊を殺す青年や、羊を焼くためにかまどに火を起こす少年の姿が描かれています。
『大洪水』

この場面では、神が人類の罪を罰するために起こした大洪水の様子が描かれています。水は地上を覆い尽くし、人々や動物たちは必死に逃げ惑っています。船や木や岩などにしがみつく人々の表情やポーズは、恐怖や絶望や怒りなどさまざまな感情を表しています。
『ノアの泥酔』

この場面では、大洪水が終わった後、ノアが自分で作ったぶどう酒に酔って裸になって寝てしまった様子が描かれています。ノアの息子たちのうち、セムとヤペテは父親の裸体を見ないようにしながら布をかけようとしていますが、ハムだけは目を背けませんでした。これは、ハムが父親を侮辱したことを示しており、後にハムの子孫であるカナン人が呪われることになります。
12人の預言者と巫女
天井画の周囲には、「12人の預言者と巫女」と呼ばれる一連の人物像が描かれています。これらは旧約聖書の預言者と異教の巫女であり、キリストの降誕を予言したとされる人物です。
ヨナ

ヨナは、神からニネヴェへの預言を命じられたが逃げ出した預言者です。彼は船に乗っていたときに嵐に遭い、船員たちに海に投げ込まれました。そこで大魚に飲み込まれて 3日間生き延びた後、神の命令に従ってニネヴェへ行きました。彼はニネヴェの陥落とアッシリアの滅亡を予言したとされています。彼は天井画の東側、祭壇の上部に位置し、大魚から吐き出された後の姿で描かれています。
エレミヤ

エレミヤは、イスラエル王国やバビロン捕囚期に預言した預言者です。彼は神からイスラエルの罪や滅亡を警告する預言を受けましたが、多くの人々から嘲笑や迫害を受けました。ユダ王国が滅びたのは、エレミアの予言が実現したためと言われています。彼は天井画の南側、祭壇側の東に位置し、右手で顎を支え、悲しげな表情で黙考している姿で描かれています。
ペルシアの巫女

ペルシアの巫女は、古代ペルシア帝国で神託を伝えたとされる巫女です。彼女はアレクサンダーの偉業を予言したとされています。彼女は天井画の南側、東から2番目に位置し、両手で持った聖書を読んでいる姿で描かれています。
エゼキエル

エゼキエルは、バビロン捕囚期に預言した預言者です。彼は神からイスラエルや異邦民族の運命や神殿の再建を預言する幻を受けました。彼はキリストの復活や再臨を予言した人物とされています。彼は天井画の南側、中央に位置し、左手に巻物を持って何かを求めるように横を向いた姿で描かれています。
エリュトレイアの巫女

エリュトレイアの巫女は、古代ギリシアのエウボイア島にあったエリュトライという都市で神託を伝えたとされる巫女です。彼女はトロイ戦争の勃発を予言したとされています。彼女は天井画の南側、西から2番目に位置し、足を組んだ状態で大きな書物を読んでいる姿で描かれています。
ヨエル

ヨエルは、イスラエル王国の分裂後に預言した預言者です。彼は神からイスラエルに起こる災害や回心の必要性を預言しました。彼は主の日といわれる神の裁きの日について予言した人物とされています。彼は天井画の南側、祭壇と反対の西に位置し、巻物を手にとって読んでいる。
ゼカリヤ

ゼカリヤは、バビロン捕囚期から帰還後に預言した預言者です。彼は神からイスラエルの再建や救済を預言する幻を受けました。彼はザカリアは洗礼者ヨハネの父として福音書に登場します。彼は天井画の西に位置し、黄色い衣服に身を包み、手に書物を持った老人として描かれています。
デルフォイの巫女

デルフォイの巫女は、古代ギリシアのデルフォイでアポロンの神託を伝えたとされる巫女です。彼女はギリシャ史において最古の巫女とされています。彼女は天井画の北側、祭壇と反対の西に位置し、右手に巻物を持ち、遠くを見つめる姿で描かれています。
イザヤ

イザヤは、旧約の預言者の中で最も偉大な預言者とされ、イスラエル王国やユダ王国の分裂後に預言した預言者です。彼は神からイスラエルや異邦民族の運命や救済者の出現を預言しました。彼は天井画の北側、西から2番目に位置し、書物を脇に抱えて耳を傾けている姿で描かれています。
クエマの巫女

クエマの巫女は、古代ローマで神託を伝えたとされる巫女です。彼女はキリストの降誕や処刑を予言したとされています。彼女は天井画の北側、中央に位置し、両手で書物を開いて朗読する老婆の姿で描かれています。
ダニエル

ダニエルは、バビロン捕囚期に預言した預言者です。彼は王たちの見た夢をもとに、王自身とその国の命運について予言した人物とされています。彼は天井画の北側、東から2番目に位置し、左手に書物を持ち、右手で何かを書いている姿で描かれています。
リビアの巫女

リビアの巫女は、古代ローマで神託を伝えたとされる巫女です。彼女はキリストの降誕や処刑を予言したとされています。彼女は天井画の北側、祭壇側の東に位置し、オレンジの衣服に身を包み、身体を捻った姿勢で大きな書物を掲げている姿で描かれています。
ペンデンティヴ
天井画の周囲には、ペンデンティヴと呼ばれる四角錐形の壁面があります。これらには旧約聖書から選ばれた4つの場面が描かれています。これらはイスラエルの歴史の重要な出来事を表しています。
これらのペンデンティヴは、天井画の中心部分に描かれた創世記の物語と対比されています。創世記では神が人類や世界を創造し、祝福しましたが、ペンデンティヴでは人類が罪や暴力に陥り、神の介入や救済を必要としました。これらはキリスト教の歴史観や救いの計画を象徴しています。
『ダビデとゴリアテ』

イスラエル王国の初代王サウルと後継者ダビデが登場する場面です。ダビデは小さな石で巨人ゴリアテを倒しました。
『青銅の蛇』

イスラエル人がエジプトから出て荒野をさまよっていた時、神に不満を言ったために毒蛇に噛まれる災いにあいました。神はモーセに青銅で蛇の像を作り、それを棒につけて高く掲げるように命じました。噛まれた者がその像を見ると、生き返りました。
『ハマンの懲罰』

ペルシア王アハシュエロスの側近であるハマンは、自分に敬意を払わないユダヤ人モルデカイとその民族を滅ぼそうと企みました。しかし、王妃エステルが自分がユダヤ人であることを明かし、王に助けを求めました。王はハマンの陰謀を知り、彼を処刑しました。
『ユディットとホロフェルネス』

イスラエルの敵であるアッシリア軍の将軍ホロフェルネスとその暗殺者ユディトが登場する場面です。ユディットはホロフェルネスを酒で酔わせて斬り殺しました。
【壁画】最後の審判

天井画の完成から20年以上後の1535年から1541年にかけて、ミケランジェロはシスティーナ礼拝堂の祭壇壁に『最後の審判』という巨大なフレスコ画を描きました。
これは新約聖書の『マタイによる福音書』や『ヨハネの黙示録』に基づいて、キリストが再臨して人類を裁く様子を表現した作品です。
この壁画は高さ13.7メートル、幅12.2メートルで、約400人の人物像が描かれています。
中央にはキリストが右手を挙げて裁きを下し、左手で慈悲を示しています。キリストの右側には聖母マリアが座っており、他の聖人や天使たちもキリストを取り囲んでいます。
キリストの下には、死者が墓から甦り、天使や悪魔が彼らの魂を引っ張り合っています。右下には、地獄へ落ちる罪人たちが描かれており、悪魔や怪物に苦しめられています。左下には、天国へ昇る義人たちが描かれており、天使や聖遺物に導かれています。
この壁画は当時としては画期的な作品であり、ミケランジェロの芸術的な成熟度や技術力を示すものでした。しかし、同時に多くの批判や論争も引き起こしました。その理由は以下のようなものでした。
- 人物像が裸であること:多くの人物像が衣服を着ておらず、性器や乳房などが露出していました。これは当時の教会や社会の規範に反すると考えられました。特に教皇パウルス4世はこの壁画を「風俗画」と呼んで非難しました。その後、教皇ピウス4世は画家ダニエーレ・ダ・ヴォルテッラに命じて、一部の人物像に布を描き足させました。これによりダニエーレは「ブリーフス・ペインター」というあだ名をつけられました。
- 聖人像が不適切であること:一部の聖人像が聖遺物や象徴的な道具ではなく、自分自身の身体的特徴を持っていること:例えば、聖バルトロメオは自分の剥がれた皮膚を持っており、その中にミケランジェロ自身の肖像が描かれていました。これは聖人の尊厳を傷つけると考えられました。また、聖カタリナは自分の首に刺さった剣を持っており、聖ブラジウスは自分の首に巻かれた鉄の鎖を持っていました。これらは聖人の殉教を表すものでしたが、暴力的で不快なものと見なされました。
- キリスト像が人間的であること:キリストは髭を生やしておらず、筋肉質で若々しい姿で表されていました。これはキリストの神性や権威を弱めると考えられました。また、キリストの右側にいる聖母マリアはキリストよりも小さく描かれており、キリストに対して恐縮するような表情をしていました。これはキリストと聖母の関係を不自然にすると考えられました。
- 悪魔像や怪物像が過剰であること:壁画の右下には、地獄へ落ちる罪人たちが悪魔や怪物に苦しめられている様子が描かれています。これらの悪魔や怪物は非常に奇怪で残酷な姿で表されており、観る者に恐怖や嫌悪感を与えました。特に、教皇クレメンス7世の甥であるビアジョ・ダ・チェゼーナという人物がミノス王に扮した悪魔に引きずられている場面は、ビアジョ本人から抗議を受けました。
以上のような理由から、『最後の審判』は当時から多くの批判や論争を巻き起こしましたが、同時に多くの賞賛や影響も受けました。この壁画はミケランジェロの最高傑作とも言われる作品であり、ルネサンス芸術の頂点とも言われる作品です。
制作のエピソード
ミケランジェロはシスティーナ礼拝堂の天井画を描いた後、彫刻家として活動することを望んでいました。しかし、教皇ユリウス2世から強く要請されて天井画を描き上げた後も、教皇レオ10世やクレメンス7世からさまざまな絵画や建築の依頼を受けました。その中でも最も重要な依頼が『最後の審判』でした。
この依頼は教皇クレメンス7世から出されましたが、彼は1534年に死去しました。その後、教皇パウルス3世が即位し、ミケランジェロに『最後の審判』の制作を続けるように命じました。ミケランジェロはこの依頼を引き受けましたが、それは教皇の権威に従うためではなく、自分の芸術的な野心のためでした。
ミケランジェロは『最後の審判』の制作に6年間を費やしました。彼は自分の意志で壁画の構成や内容を決め、教皇や他の人々の意見には耳を貸しませんでした。彼は自分の作品に完全な自信と誇りを持っており、誰にも干渉されたくなかったのです。
しかし、この姿勢は彼に多くの敵や批判者を作りました。特に、教皇パウルス4世はこの壁画を非常に嫌っており、ミケランジェロを破門すると脅しました。また、ビアジョ・ダ・チェゼーナやピエトロ・アレティーノなどの人物もこの壁画を激しく攻撃しました。彼らはミケランジェロの芸術性や技術力を認めながらも、その内容や表現方法を不適切だと非難しました。
ミケランジェロはこれらの批判や論争に対して無関心ではありませんでしたが、自分の作品を変えることはありませんでした。彼は自分の芸術的なビジョンに忠実であり続けました。彼は『最後の審判』を通して、自分の信仰や人生観や芸術観を表現しようとしたのです。